体と心が同時に溶けた。
瞬間の甘ったるさをどこか引き摺って、湿った布団の上で余韻に揺れる。
自分以外の存在がすぐ傍にあること、それにこそばゆいような満足感を得る。
ああ、多分、今のじぶんは、しあわせなのだと



「なあ……」

思考を途切れさせる静かで低い呼びかけ。
とろりとした記憶の中から抜け出すように、視点の焦点が一気に暗い闇の中収束する。
それだけの響きだったのだ、少年にとっては。
やたらと甘い声音、ここまで極端に誘われると、慣れた体には速攻で効いてしまうから。

「何?」

一護は平静を装って聞き返した。
誘われているのはわかっている。
だが、少し、言葉自体でも引き出して、惚れられているという実感を味わってみたいがためだ。
まだ波のような快楽が肌の下に残っている。
もう一度その上に甘い悦楽を重ねるかと思うと、皮膚の表面がぞろりとざわめく。
すぐにも引き寄せて、もう一度組み敷きたいと思ってしまう心を押さえつけて、彼の返答を待った。


呼びかけに応答を得た阿散井恋次は、気のせいか、僅かばかり目元を染めた。
それから、そうっと同じ寝台の中にいる年下の恋人に囁く。
「逆やる気って、あるか?」

直接的な言葉を引き出したら、今しも二回戦目に突入しようかと思って待機していた少年は、 聞き取れなくて、今度は素で聞き返す。

「え?」
「いや、だからさ。お前、逆やってみねえって話なんだけど」
「ぎゃ、ぎゃく?」

聞き取れないのではなく、よくわからなかった。
恋次に伸ばしかけた手を途中で止め、瞬きしながら少年は意味のよくわからない言葉を発音してみる。

「ん、だから……俺がてめえのこと、抱くってこと」

いつものような色を含んだ視線の中、見知ったそれより雄の気配が強くて、少年は及び腰になる。

意味がわからない。意味がわからない。っていうか、なんで?

逃げかけた手が、大きい手の平に捉えられる。

「嫌か?」




一護は思わず首を――――縦に振った。

「無理」
「こわい」
「っていうか、なんで?」
「俺に飽きた!?俺が下手とかそういうこと!?」
「ぜってー怖えよ!無理!入るわけねえだろ俺未経験なのに!そんなでけえの!」

状況を把握した後、涙目でまくしたてる少年を見ながら、恋次は思わず片手で自身の顔を隠した。

からかってやろうと思っただけだ。
抱かれる側に飽きてもいない。嫌悪も無い。
こんなことの役割分担だけで関係の上下が決まるわけでなし、馬鹿馬鹿しい矜持の張り方をする気はない。
ただ、興味があるのは事実で、ちょっとカマをかけてみようと思ったのだ。

ここまで極端に嫌がられて、少し涙目の恋人を見て、傷つくどころか思わず可愛いと思ってしまった。
そんな自分に頭が痛い。

(大体てめえの方がでかいっつの)

途中まで冗談だったのに、余りにもそそる反応で返す子供。
それを横目で見ながら、男は本能を押さえ込もうと息を深く吐いてみた。

(ああ、ちくしょう、ほんと襲ってやりてえな――――……)

今日はこの少年を見下ろしたい気分だ。
そう思って、赤い死神は、自分で動こうかな、と再度の閨事を計画した。




Fin.



涙目で防御モード全開になった年下のカレシに、思わず本能揺さぶられるといい。
そんなベタ惚れな年上のカレシ様。

Joyce
執筆(2007/04/28)
更新(2007/5/13)



WJ中心ごった煮部屋へ。