ぎ、とスプリングが軋むのと同時に骨ごと揺らされる感覚。 濡れた肉同士が擦れる音で脳髄が溶ける。 ぎりぎりまで一気に引き抜かれる感覚に器官が悲鳴を上げるが、男は唇を噛んで声を堪える。 「っあ、う、……っあ、あ」 息を吸おうとした合間、上唇と下唇の隙間を縫って漏れ出る音は意識から除外する。 そうして羞恥よりも必死で感覚を追おうとする。 痛みよりも快楽を追おうとする。 圧し掛かった少年は、男の手がシーツの上を這うように逃げを求めたのを見て、動きを止める。 「へい…き、かよ?」 締め付けに少年の声が上擦る。 耳元に落とされた吐息混じりの声に、軽く紅の髪が揺れるように震えた。 上気していた肌の上、耳まで更に朱の色が駆け上がる。 小さく口を開いた男は、す、と呼吸をしてから緩く首を振った。 「何、……いきなり、気ィ遣ってんだ」 そこまで言って、シーツの上、火炙りされた貝のようにゆるりと逃げていた手が、ぎこちない動きで握られる。 それを見て、少年は眉を寄せる。 痛いのだろう、辛いのだろう、それとも屈辱があるのだろうか、と心中に不安が過ぎる。 「………っ」 少年の腰が、心と同時に逃げを打つ。 その瞬間擦れた肉の心地良さに抜きたくなくて、膝から力が抜ける。 蠱惑の快楽と胸の鈍痛に苛まれて、喉が泣き声に似た残滓を絞り出す。 呻くような吐息とともに、恋次が少しだけ振り向く。 一護からは片側の顔しか覗けなかったが、瞳が濡れていた。 月明かりのか細い光をちらりと反射した眼から染み出す涙に怯えて、少年が声もなく竦む。 不自然な体勢のまま、男が口を開いた。 喉の器官の中で荒い風のような呼吸音が何度も流れた後、少年への言葉になる。 「……っ、おま、え、なんて顔、してんの」 「痛い……のか?」 「……平気、だっての」 お前のが泣きそう、と無理矢理のように少し笑った。 「……無理じゃねえ?」 遠慮がちな台詞に、らしくないと言って、乱れた息と共に笑う。 ひゅ、と一度喉が鳴ってから、その声が喘ぐより早く、赤い髪の死神が言い切る。 「お前相手に無理とか言いたくねえ」 にぃ、と艶笑一つ。 怒りだけではない強い感情に頭を支配されて、一護は勢い込んで返す。 「む、無理って言いたくないとか、そーいう問題じゃ……!」 「っ、あ、……てめ、そ、んな、動き方あるかぁ……っ、馬鹿」 「あっ……!」 ぎちりと搾られて、少年がびくんと身を捩る。 潰すように体重を掛けられている男も、急いた深さに体躯を跳ねさせて、衝撃に耐える。 返した罵声は、甘い溜息を零した少年には届いたのか自信がないほど弱い声音だった。 「ん、あ、やぁ……っ、も、無理だ、恋次」 「……っから、来い、って」 「だって」 さっきの手を思い出す。シーツにしがみ付くまいとする大きな手。 耐える手。あれを直視して、独りよがりの快楽に浸れない。 埋めた肉が限界を訴えて震える。 暴走したい若い身体を根性で押さえつけようとする努力に打ち込んでいたところ、 あの手が力を抜いて、シーツの上を泳いだ。 布の襞を捉えて、ぐっと掴む。 「それが、年上の余裕ってもんだろ?」 切れ切れだった筈の音は確かに耳に届いて、少年の中の薄黒い不安が氷解した。 自分より大きな背中を抱きかかえるようにしながら、中途で止めていた半端な抽挿を繰り返す。 背中の筋肉が黒い模様と共に踊る、その上を辿る汗をちろりと舌で舐め上げながら、疼きに任せて突き上げた。 「涙目のクセに、……無理、しやがって……!」 少年が、ままならない自分の身体と感情に焦れ、詰るように声を荒げた。 思い切りそれを言葉と動きでぶつけられた男は低く呻いてから、何度か無様な音を飲み干してから、息の合間に短く告げる。 「無理……して、んじゃねえの」 「……?」 視界ごと蕩け始めた一護の耳に、くぐもった発音が届く。 それは確かに一度シーツに吸い込まれかけ、その白い面に反射されて少年の元まで辿り着いた声だった。 恋次らしくない、焦ったような、小さな声。 「感じてんだよ」 ざわ、と後頭部のざわめきが、腰からの快楽と直結して理性が吹き飛ぶ。 言葉の響きだけで爆ぜそうになった欲望を、かろうじて残った理性の欠片で押さえつける。 できるだけ肌が密着するように深く内部を抉った。 一際大きく脈打った男の肉体を体重と両手で押さえつけて、少しの距離も逃さないようにしてから、中で逝った。 果てる前に名前を呼んだつもりだったが、快楽の悲鳴に紛れて、彼の元には届かなかったかもしれない。 少年は後からゆっくりそう思った。 身体の中に体液を注ぎ込まれて、その刺激に腰を揺らめかせ、寝台の布に自身を探らせて少し遅れて達する。 ぺったりと張り付く布の感覚に、ぶるりと身を震わせながら、恋次はゆっくりと息を吐いた。 「ん……」 まだ中に在る。 体液もそうだが、少年が退かないので、起き上がりようが無い。 「こら、……おい、って」 「……ん……あ、ああ!」 ぼっとした返事が返ってきたかと思うと、半端な飛び方をしたのだろう、焦った声へと打って変わった。 一気に抜かれそうになって慌てて、寝台の布を深く握る。 「てめ、……ゆっくり、やれよ」 「う、うん」 「……っ……ゆ、っくり、過ぎ」 「え、あ……!わ、わかんねえよっ……んなさじ加減」 そう言いながらも緩急に気をつけて、なんとか引き抜いてくれた少年を可愛いと思って、身体から完全に力を抜く。 抜ききったそれは体液を引き摺って出て行ったから、首筋までぞくぞくする妙な感覚が走ったが、とりあえず甘い声に変えてその熱を逃がす。 動くのも億劫で、溜息と共に布の中に沈む男の髪に、一護の手がゆっくり絡んだ。 額まで辿り着いて、骨の形を辿るように、そうっと頬まで撫で下ろす。 「マジ、平気?」 「だから、……平気だっつってんだろ」 「無理って言いたくねえだけなら、本当は平気じゃねえんじゃねえか。意地っ張り」 「素直じゃねえのはてめえの方だ。俺が何つったか聞こえてねえのか?」 今更、少年が、頬に血を上らせる。 その恥じる姿をゆっくり見てやろうかと、腕で身体を起こして、なんとか重たく沈む身体を仰向けにする。 露な視線を浴びながら、一護はうろたえつつ小さく答えた。 「……き、聞こえた、けど」 「じゃあ何で何度も聞き返すんだ?」 「心配だからに決まってんだろ……」 唇を尖らせた少年の顔がおかしくて、男はくつくつと笑い出した。 腹筋ごと跳ねる笑いに少年が顔を真っ赤にする。 言い返そうとした子供の頭を両腕で引き寄せて、落とした声で囁く。 「ん?おら、壊れてねえだろうが」 体温で確かめさせて、橙色の頭を何度も撫でる。 「……壊れる、とか思ってねえよ」 「わかってんじゃねえか、じゃ、一々お伺い立てなくても大丈夫だろ?」 ぎゅ、と抱きつき返されて、その腕の力強さに男は脱力した。 暖かく抱かれると、胸の中に甘苦いものが湧き上がる。 嬉しいと同時にどこか心苦しくて、少し腕を緩めさせようと、少年の背を軽く叩こうとした。 指先が肩甲骨に触れて、その形の隆起すら愛しく感じて、茶化せずそのまま背筋を撫でた。 くすぐったがるように一護はその指から逃れると、少し身体を離した。 両手で男の顔を包み、じい、と覗き込む。 「?……何だよ」 「なら、いい」 そう言いながら、一護はぷいと横を向く。 恋次の目には涙らしきものは残ってはいたが、少年の心がざわつくほど荒れたものではなかった。 どちらかと言えば気だるそうな視線の色に、もう一度ぐらりと引き寄せられそうだったから、横を向いて誤魔化す。 「一護」 「何」 呆れた声が、少年の頬に息と一緒に掛かった。 「何、じゃねえよ。どこ向いてんのお前」 「別に」 「こっち向け」 「嫌だ」 「やだ、とか可愛く拗ねてんじゃねえよ」 からかう声音に、少年が刺激された闘争本能には素直に従って向き直ると、顎からしっかり捉えられて、口付けを与えられる。 柔いそれが深みを増すと、逝ったばかりの身体に効いて、少年は反射で瞳を閉じて受けた。 上顎を舌先でなぞられ、それからゆっくり舌が引き抜かれるのを口の中の肉で感じながら、暗い瞼の裏で全ての動きを辿る。 口内を優しく蹂躙されたことに、敗北感と裏返しの満足感を得る。 その様子をじっくり観察していたらしい赤髪の男は、意地悪に笑んで、尋ねた。 「平気?」 「っ、平気だよ!」 「お前、すっかりエロい顔してたけど、マジ平気?」 「……平気だよ!あとちょっとされたら、ヤバかったけど!」 その焦った返答に恋次が爆笑した。 それから、ほんの気持ちだけ笑いを堪えながら少年の首筋に縋りつく。 「笑うなっ」 「はは、っははは!んだよ、ヤバいってどんなんなんの、一護」 「うるせえっ」 「なぁってば」 「さっきみたいに、我慢効かなくなるから!」 「さっきみたいに、頑張れば?」 笑い交じりの紅の瞳に下から笑まれて、くらっとする。 「うるさい、うるさい!んなこと言ってると、マジでもっかいすんぞ、てめえ」 「いいけど」 「いい……って、さっきまで泣いてたくせに」 「だから泣かねえって。それともアレか、それは今度は泣かせてみせるっていう自信の表れか?」 唇の上をそうっと舌でなぞられて、我慢していたものが背に走った。 一度逝っただけの身体に、刺激を加えられれば、我慢もできないというものだ。 血の上った頭で、遠慮せずに男の身体を組み敷いた。 白い布の上に血が垂れるように赤い髪の毛がざぁと広がる。 何故か、乱暴そうなその所作に、恋次は満足そうだった。 そのことに、一護の方が動きを止める。 一方的な快楽は望みたくない。 身体を奪うだけならこの行為に意味を見出したくない。 「お前は考え過ぎなんだよ」 「……?」 「したいから、でいいじゃん」 「そんな簡単なものかよ」 むかっとして、言い返す。 余りにも軽い言葉に自分の中の葛藤が情けなくなる。 惚れているから抱きたい。 そういう切ない想いは、結局は野蛮な肉欲でしか表面に浮かび上がらなくて、哀しくなる。 「……させたくないやつには、早々簡単にさせねえよ」 「そう、かよ」 「考えてくれんのは嬉しいけど、どうせ頭使うんならどう感じさせるかで悩んでくれよ。どう抱くかで悩んでくれ。抱くか抱かねえかで悩むんじゃねえよ。 誘ってる俺が馬鹿みてえじゃねえか」 「……、あ」 「だろ?」 「……うん」 「怯むくらいならてめえのガキ丸出しの身体、遊びで突いたりしねえから」 「ガキ言うな」 「んじゃ、誘惑されやすいエロい身体?何でもいいけど、てめえだけがしたいと思ってんじゃねえよ」 片足を腰に絡めて下から誘う。 「俺の方にも気持ちがある。痛えかだけ慮られても嬉しくも何ともねえの」 「……おう」 「生返事ばっかでさっきから聞いてんのか?」 「聞いてる、恋次」 「……わかったか?」 「……うん、俺も抱きたい」 大事なものを包むようにそうっと抱き込んだ一護に、少し顔を赤くしてから、男はぼそりと言った。 「ん、じゃ、……もっかい来い」 少年は頷いて、暖かさの中にさらに沈もうと腕の力を強くする。 恋次は夜闇に煙る視界を自ら閉じ、少年の髪を幾度も撫ぜる。 彼が落ち着くまで、自分が落ち着くまで、そうして何度も撫ぜる。 少しの動きにぴくりと緊張したり、緩やかな愛撫に力を抜いたりする様子が腹の上でわかって、温くて、心地良かった。 ――――夜が明けるまでは自ら檻に囚われる、互いの腕を格子とするように。 Fin.
手が云々は、ヤバいと思った時タップやりそうになってたら楽しいなと。
体育会系認識。 基本的には攻めが喘いでる方が好きだよ。 一恋だったらどっちもうるさいと楽しい。私が。 Joyce 執筆(2007/02/25〜28) 更新(2007/03/01) |