「脱ドーテー、おめでとさん」 に、と赤い髪の隙間から覗く、紅玉みたいに赤い目が笑う。 何も今、そんなこと言わなくたっていいのにと思いつつも、意地悪な口調には意地で返すしかない。 「ご協力どーもありがとうゴザイマシタ」 ほんとはこんなぞんざいな言葉を投げたいわけじゃないのに。 どうしてそんなに嬉しそうに笑うんだ、こんな、意地張った虚勢、気付いてる癖に。 俺が本気だって、知ってる癖に。 あいつは傾れていた髪をざらっとかきあげて後ろに流し、世間話のように軽く訊いてきた。 「ご感想は?」 「……」 「あれ、何もねぇんだ?」 「何もって……別に……」 「あんまりヨクなかった?」 穏やかな笑みを深めて問う。 その眼差しが、思いっきり笑っている。 わかってるよ!暴発しました!思いっきり暴発しました! だって、たまんねぇんだもん!何だよアレお前ッ! 「……よ、良かったに決まってんだろ!」 「それは、どうも」 満足したらしく、布団を被りなおして寝る体勢に入った男の肩をがしりと掴んで引き止める。 「何だよっ、俺にだけ言わせて、てめえはぐーすか寝る気かよっ」 「え?聞きてえの?」 きょとん、とした瞳で言い返されて、言葉を失う。 確かに……あんな、理性吹っ飛んだ状態の感想なんざ聞いたって……凹む、だけかもしんねぇ…… っつか、ほんと冗談じゃなく初めてだったし。こいつはシタ経験あるっぽいし。 つーかあるに決まってるか……ソートー長生きしてんだろ? あれ?生きてるって言い方がオカシイのか? そう考えると、初っ端から誰かと比較されてるようなもんなわけで。 上手い訳ないんだ、そんなこと聞くの怖いに決まってる。 「……別に、聞きたいわけじゃない」 首にするりと手が絡む。ぎゅっと抱きつかれて息を呑んだ。 甘えるような抱きつかれ方をしたのは初めてかもしれない。 「すげえ感じたよ」 どことなく甘い響きの声、言葉の内容の方がずっと甘い。 「笑えることに、身体に力入んねぇんだ」 もたれかかる身体の重みの意味を知って、くらりとする。 凄く緊張した気疲れだけじゃなく、実際やったことでも疲れてたけど、こんな風に言われると、また抱きたくなる。 俺はおかしい、さっきだってあんなに感じたのに。 こいつだって、もう力入らないって、ギブアップしてんのに。 我慢するように、その背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。 「……下手だろーから、痛い思いさせたと思ってた」 「ん?何言ってんだ、お前」 「絶対痛かったろ、いーんだって、そんなん、気ィ使ってくれなくたって」 「別に気なんか使ってねぇよ。お前抱けたの嬉しかったし」 「抱いたのは俺の方!」 「わーってるよ、抱いた抱かれたって男同士で細かい違いねぇだろうが」 「だって」 「挿れるか挿れられっか、がそんなに大事か?まぁそういやそうか。初めてで処女貰われちまう方が男としては複雑だろうし?」 「それって……あの……いや、いいや」 なんか、その言い方。次は抱かれるの俺、みたいな感じがしたので怖いから聞くの止めた。 そん時は、そん時だ。……多分。 「……恋次は?」 「あ?」 「初めては、女?」 「遠い昔のことだけど、多分そうだったと思うぜ」 「初めての相手のことなのに、覚えてねぇのかよ」 「恋愛沙汰じゃなかった気がするしなぁ。恋愛沙汰だとしても……若さの至りっつーか」 「男としたこともある……んだよな?」 「まーこんだけ長く死神やってりゃねえ、色々あるから」 「何なんだよ死神業って……俺そんなんだったら、永久就職先が護廷十三隊は勘弁だな」 「男は嫌なのか?」 暴発した俺相手に、よくもまー、いけしゃあしゃあと聞くもんだこいつは。 「てめえ以外に誘われんの考えるとぞっとしねえ」 言外に、お前だけ特別なんだって、言う。お前にだけ感じたんだって。 「ふーん、いい男結構いると思うけど?」 「……それって、てめえの昔の相手、俺も知ってたりするってこと、か?」 「さーどうかね。突っ込んだ遍歴聞くのはマナー違反だぜ、ガキ」 ……一応、否定して欲しかった。 マジで俺が知ってる奴なのか?くそ、今も続いてんじゃねえだろうな、てめえ! 必死で大人の仮面を被って耐える。ああ、絶対、こいつ俺で遊んでる。 ボロなんか出してやらねえよ! 「気になったわけじゃねえし。言いたくねえなら聞かねえよ」 「へえ、比べられるのが嫌なわけか」 「なっ……」 頭がかっとなる。当たり前だろ、そんなこと。お前に比べられるのは、嫌だよ。 だって、俺にとっては初めての。 「ま、上手いだの下手だのが重要じゃねえとは言わねえが、気にする話でもねぇと思うし」 「……そうかよ」 「そうだろ?だってよ、例えば絞りきれねえ相手が二人いて、甲乙つけ難いから、上手い方を選びますってんならともかくも」 「絞るって、オイ」 「だーかーら、絞る対象が二人以上いたら、の話だろ?」 ああそう、お前もそーいう遠まわしなやり口で口説くわけね。 つくづく似た者同士なことを実感して、頭が痛い。 でも……こんなんでもちょっと嬉しい自分がいて、敗北感。 「大体、下手なら下手で、これから上手くなりゃいいだけの話だし」 「ったって、下手さ加減に幻滅されて終わりーとか嫌じゃんかよ」 ちら、と目線をやると、ぷっと笑われた。てめえ、ちょっと、そこ直れ。 男子高校生の純情舐めんじゃねえぞ。 「上手くなりゃいいじゃん、俺で」 「…………何だ、ソレ」 「どーぞ、今後もご協力させていただきますって言ってんの」 「……っと、……え?れ、練習させてくれんの」 「わかんねえ奴だな、全部本番だよ馬鹿。練習って誰本番にする気だよ、お前」 「そういう意味じゃなくて!え?マジで?」 「マジで。どんどん上手くなって、俺のこと、てめえ無しじゃいられねえようにしてみろ。百年くらいなら、待っててやってもいいぜ」 「……!!くそっ、そんな時間いらねえよ、すぐにメロメロにしてやるよ!」 「ははははは、今は無理!面白いこと言うな腰に響くだろ」 「笑うなっ、本気だからな、なんなら今からだ、てめえの腰、更に痛くしてやるよ!」 「はは、いや、勘弁、眠いから。はははは」 「ひでぇ!絶対覚えてろよてめえ!散々てめえのこと抱き倒して、俺のこと忘れられないよーにしてやっからな!」 「はいはい、んじゃ、俺寝るから。ベッド半分貸してくれな」 「人の話を聞け!」 思いっきり布団を被った男の寝息はすぐに聞こえてきた。 腹が立ったからそっちを向かずに、背を向けて自分も布団に入った。 入った中で、背中が触れ合って、その暖かさに何とも言えない気持ちになった。 熱に浮かされてこいつを抱き、終わってみたら、ぐらぐらする程惚れていた。 抱く前から好きだったのか、抱いてる時に好きになったのか、終わってから参ったのか。 わからないけど……本気で、おかしくなるほど、こいつが好きだって気付いた。 世界が違って、年も違って、当然経験も違うけど。 だけど、これで終わらせたくないなって思ったんだ。 もっと、足りないって思うんだ。 「マジで、絶対、離れられないようしてやる」 小声で言ったら、「楽しみにしてる」だなんて、好敵手紛いの台詞がぼそっと返ってきた。 馬鹿野郎、こんな時に狸寝入りか。 一気に顔が熱くなって、背中合わせで良かったって思った。 それでも、ばれた羞恥心よりもこいつが受け入れたことの方が嬉しくて、俺は、今度こそ言い返せない。 ほんとに、待っててくれるって言うなら、俺は――――。 期待してくれる何十倍も早く、てめえの心身根こそぎ奪ってやるから覚悟しろ。 Fin.
もう既にめろめろな赤いコとドーテー卒業直後で微妙に気ィ立ってる一護。
初めての男は修兵コースと藍染コースと二本あってもいいかなぁと。 藍染コースはもれなく銀狐がついてきますよ、と。 Joyce 執筆(2006/08/03) 更新(2006/08/06) |