「っァ……っ、せんぱ、も、やめて」

かり、と鎖骨に当たった歯に身体を跳ねさせながら、真紅の髪を揺らして男が言う。
拒絶の言葉に不服そうな顔をした傷面の男は、下肢を弄ってべとりと塗らした手でそのまま恋次の頬を触った。

「ガタガタうるせえ。口の方も縛るかよ?」
あ?と聞きながら、体液で汚れた指で恋人の唇をなぞる。
自分の味のする修兵の指を口元に突っ込まれて、恋次は少し怯んだ顔をした。
だが、観念したようにその細長い指に舌をそっと載せ、黒い瞳を覗き込んで囁く。
「別っに、……やるの嫌だって言ってるわけじゃねぇよ……」
きょとん、と紅の眼を見返して、修兵が尋ねる。
「なら、何だよ」
「手、外せよっ、こんなん動き辛くて、ヤだし」
苛々した様子で動かない両腕を恋次は動かそうとして暴れ、ままならない状況に、恋次は溜息を吐いた。


太い両腕を吊るように布で縛られて、床の間の中途な太さの柱に括りつけられている。
麻縄のような食い込む荒いものではないから正直あまり痛くはない。
絹だろうか、よくわからないがやけにすべすべした布だ。
綺麗な刺繍が入っている。高価な帯布か何かかもしれない。
引き千切れないわけでもないはずなのに、その柔らかい感触に何となく、力が篭められない。
むしろ、力を入れるために手首の筋が立つと、そこをするりと撫ぜるのが、妙に生々しくて力が抜ける。
生き物ですらない布に感じてどうするのだと自らを叱咤するが、散々煽られた身体では衣擦れですら刺激となる。


「別に乱暴なこと何もしてねぇだろ」
「何もって……縛ること自体は乱暴じゃないとでも?」
「痛いか?」
「痛くは……ないけど」
「ならいいだろ」
あっさりと言って、顔を胸に近づけ、肌を舐め始める修兵に、いや、違うだろ!と焦って声をかける。
「なんで縛りてぇんだよ」
「じゃ、なんで外したいんだよ」
問うた後、唇の先で胸の先端をぱくりと咥え、ふにふにと弄りながら回答を待つ男。
その感触に一瞬だけ肩を震わせて、少しだけ顔を赤くして、「アンタに、触りたいから」と恋次は答える。

意外だという顔をした修兵が、眉を上げて笑う。
「へえ、可愛いこと言うじゃん」
「先輩は?なんで、こんなん縛るの。危ねえ趣味?」
「無抵抗ってあんま好きじゃねえし、やったのはこれが初めてだよ」
「……抵抗されたいわけ?」
「抵抗っつか、マグロはヤだっつーか」
「マグロ嫌なら、外してくれよー……」
呆れたように言った恋次の顔をさらりと撫で、修兵はその顔に見入る。
無言でじっと見詰められて、気詰まりなような、落ち着かない気分になった恋次は、眉間に皺を作った。
「な、何だよっ」
「お前が、さ」
「……何」
ぼそ、と問い直した恋次に、無邪気な笑顔でさらりと発言が投げつけられた。
「悦くてたまんねぇって、髪振り乱してさ。身体上手く動かせなくて、逃げてえのに逃げらんなくてさ、もうどうしようもねぇって顔で俺のこと見るのが、たまんないんだよ」
「な……」
「思い通りに身体動かないと、倍増しすんだろ、感覚」
「先輩っ、そういうの言うのやめろよ!」
「さっきからお前反応凄いもん。どこもかしこも。眼だって滅茶苦茶潤んでる」
「っ……!」
「お前こそ、危ない趣味してんじゃねえか。こんな、ちょっと縛られたくらいで、かなり感じてんだろ?」
「言うな!」
言葉から逃れたいのに、この場から離れることもできない。
腕を掴んでいるのはただの布。
それでもまるで修兵の手で両腕を拘束されているような熱さを錯覚する。
多分、身体が火照っているからだ。こんなことを言われて。
「先輩……」
「何だよ」
にや、と笑う顔の裏の凶悪さを感じ取って、ぐらぐらする。
この男の、この、どうしようもないところに、弱い。
昼間の禁欲的な姿が嘘のように、直接的な欲情をぶつけてくる姿に弱い。
視線があまりに貪欲で、全身が反応する。
むき出しの両脚を撫ぜる指が、気持ちいいのに、苦しい。
脚にだって性感帯はある。だが、今求めているのは、もっと直接的な。


焦らすように泳いだ指先を、ひくつく足の感覚で追う。
そう、もっと、先に、奥に。そして強く。


唇は余計な言葉を発しないようにきつく結ばれ、目線も合わせないようにしている。
だが、性器を掠めるようにやんわりと焦らせば、焦った視線が修兵の元に舞い戻る。
甘さを含んだ懇願の視線。本人は自覚してはいないのだろうが。
そろそろいいだろうかと握り込んでやれば、腰ごと跳ねた。

「うっ……あっ……!」

耐えるようにまた眉間に皺を作っている顔を満足気に眺め回し、それから、修兵はふと視線を上げた。
吊った両腕が、布をぴん、と張って、彼の身体を繋ぎとめている。
手はぎゅっと握られ、何も掴めなくとも力を篭め、ぷるぷると震えている。
この手を背中に食い込ませて快感を推し量るのも良いが、こうして視覚的に楽しむのも、悪くない。
指の震え具合があまりに愛しくて、撫でる手を速くする。

「せんぱ、先輩っ……!や、っ……手、が……これ、取って……!」
「気持ち良さそうだなぁ……お前。そっか、泣くほどイイか。そんなお前見るの、俺も嬉しいんだぜ?」
「違っ、違う!外せ!っあぁっ、……あ、あ!」
「外して欲しいんじゃなくて、抜いて欲しいんだよな?それとも、挿れて欲しい?」
「うっ……あっ、あっ、…ああああっ、嫌だ、おかしく、なっちまうッ…」
「そのために、可愛がってやってんだろ」
「せん、ぱいぃ……っ」
「いいから、恋次。意識飛ばしてもいいぜ。お前を、ちゃんと、俺が繋いでやるから」
「ならっ……そんなら、早く……!」
「欲しい?」
「……馬ッ鹿野郎、わかってて聞いてんのか。サイテーだよアンタは!」
「いいから、言えよ」
な、と言いながらきつめに擦り上げると、我慢しきれずに一際大きな嬌声が零れる。
達するのはぎりぎりで我慢しきったらしい赤髪の男は、それでも、手の中のものも、瞳も、すっかり滴っていた。
半開きの唇が、ぱくぱくと息を吸おうとして動く。
誘っているとしか思えなかったから、修兵は素直にそこに口付けて、舌先を捻じ込んだ。

恋次は逆らわず、入り込んだ舌に自分のそれを絡めて軽く吸い、それから唇の動きでだけ、欲しい、と言った。




Fin.



対修兵。
先輩はナチュラルな拘束ぷれい。
可愛いコは虐めたい。泣かせたい。喘がせたい。
対恋次においてはサイテーな美人だといいなぁ修兵。
逝ったばっかりの恋次の顔とか、うわーコイツすっげえ可愛い……とかキスできそうな距離で見詰めてればいい。
視姦大好きな先輩。

モノホン縛道を彼らの間で使うと院生時代の稽古のようで色気がないというか、むしろ生々しいというか。

Joyce
執筆(2006/07/17)
更新(2006/08/06)



WJ中心ごった煮部屋へ。