布団に潜り込んでくる体温と動き、殺気ゼロ、むしろ甘ったるいくらいの空気。
誰とは言わなくてもわかるのだけど、唇の上に柔らかい感触を受けてさすがに目を開けた。
赤い瞳が捉えるのは、黒髪の男。目線が合うと、薄く笑われる。
ぺた、と傷のある頬に寝起きの体温を宿す広い手の平を当てる。
傷のざらりとした感触と滑らかな肌が交互に平に当たる。間違いなく檜佐木修兵の顔だ。

夢じゃなくて、現実。
良かった、自分がこの男を夢に見てしまうほどではなくて。
そう思えばこの状況から少しは救われた気にもなれるだろうと恋次はぼんやり思った。

「……檜佐木、さん」
「おはよ」
「……朝っぱらから人の部屋で何やってんの」
「ナニしようと思って」
「……。寝込み襲うってのもどうかと思うけど、隊務始まるんでマジ勘弁してください」
ふあ、と欠伸しながら恋次が起き上がって言う。
肩下まで伸びる赤い髪、緩く結った三つ編みがするりと前に流れた。
そのいつもとは違う姿に興を惹かれて、修兵は編んだ毛の先をくい、と軽く引いた。
「お前髪編んでっと可愛いな。いつも寝る時こんなんなの」
「あ?何また馬鹿なことを。そろそろ暑いから首にまとわりつくのうざいんすよ」
「うぜぇなら切れって言いたいところだが、お前のはちょっと勿体ねーな」
「それはどうも。っつか、マジでしに来たんですか?それとも別の用事ですか」
「マジの方」
「俺もマジで時間ねぇんですけど」
「マジの方なんでお願いします。愛してる、恋次」
「……それ言えばなんでもいいと思ってるだろ。今日はほんと時間ねぇっつーか後のこと考えると犯ってる余裕ないんで」
「お願いします。俺も割と時間はない。時間が勿体無いからなるべくすぐに」
「なんでそんな偉そうに頼むのアンタ……」
「うっせーな、強制コースに入るぞ」
「これは強制じゃないのか?……まぁいい、どうしてもってんなら口で勘弁して。ほんとに時間と体力使いたくない」
「してくれんの」
「しっかりそのつもりだったんだろ?後ろ使わせてやれないけど、文句は言うなよ」
「わかった、よろしく」
「ほんとだろうな。ぜってぇ最後まではさせねぇからな?アンタその勢いでなだれ込みそう」
ちゃんと口だけで終われる?と尋ねられて、「大丈夫大丈夫、任すから」と修兵はにこりと笑った。


素直に袴の前紐を自分で解き始める彼を呆れ顔で見ながら、恋次は編んだ髪を邪魔にならぬよう後ろに放った。
朝から収まりがつかないなら自分で抜いてくださいよ、と思わないでもないが言わない。
誘う時の修兵の目の熱に弱いのだ、結局。
黒い目の底に走る情欲の光の熱さと甘さに、いつもやられる。簡単に、捕まる。
自分が飲まれないようにしなくてはな、と首を振る。
喉奥に甘ったるい熱が灯りかけて、まだアレも舐めてないのに馬鹿じゃねーの俺、と自虐を心に零した。


下帯まで取り去った股間に顔を埋めて、舌で奉仕する。
手を添え、幹を擦りながら丁寧に舐める。
目を閉じていたが、何度かうわ言のように名前が呼ばれたから、ぱくりと先端を咥えて見上げてみた。
男が黒い髪の先を少し揺らすようにして、薄く上気した顔で恋次を見る。
せんぱい、と唇で囁けば、口の中の物と一緒に、身体もぴくりと動いた。
息を上げて、あの目で見つめてくるから、自分の中にも熱が灯りそうになって、慌てて赤い髪の男は視線を落とした。
すぐに目を瞑り、口淫に集中する。
濡れた音を立てて舐めていけば大きくなるそれに、すぐ終わらせなければという理性に、入れて欲しいという奥底の願望が薄く混ざる。
(違うって。時間ないからこれやってんだろ俺)
大分慣れてきた匂いと味に、行為の色々な感触が思い起こされて、身体が熱くなりかける。
早く、早く、終わらせないと。
焦った気持ちでできるだけ深く咥えて、全体を吸うように口の中の肉で締め付ければ、小さく呻いた修兵の背が反った。



「恋次さんっ、おはようございます!」



玄関から響いた声に、二人で目を見開いてびくりと動きを止める。
起きてますかーと元気に掛かった声に、「誰よ?」と修兵が素早く聞く。
「理吉のやつだ。うちの隊員。迎えに来てくれたんだな」
「隊員に出迎えとかそんなことさせてんの!女王様かお前」
「違うって、あいつが自分から来てくれてんの!」
「いつもかよ?」
「まぁ、大体」

言いながら手と口を離して立ち上がった恋次に、修兵は慌てた。
小声で抗議する。
「おいっこれこのまんま!?」
「……だってあいつ無視するわけにいかねぇもん」
「俺よりそいつを取んのかよ!」
「そういう話じゃないでしょうが」
「いや、だってこの状態放置ってお前ひど過ぎ。ありえない!」
「朝から襲いにきたひとに言われたくねぇです。あーあーもう、じゃあテキトーに抜いといてください」
「恋次っ」
「理吉に聞こえる。黙って」


台所に行って、軽くうがいをする音が聞こえて、修兵は顔を顰めた。
そんなこと考える余裕があんのか。
くそ、先に口で抜かせて、その気になりそうだったら、その後も、って考えてたのに。
後輩にまさか放置プレイをかまされるなどと夢にも思わなかった修兵は、見下ろしてこれどうすんだよ、と呟いた。
玄関に消えた影を見えもしないが恨めしく睨む。
マジで一人で抜くわけ、と思うと爽やかな朝とは正反対のどんよりした気分が訪れた。
かなり追い詰められたところまでは行ったので、出したい欲求はあるが、空し過ぎる。



どうしても手を伸ばす気になれず、そのままの状態で固まっていた修兵の元に、寝巻き代わりの着流し姿の恋次が戻ってきた。
少し驚いた顔が、それからすぐに笑みに変わる。
赤い瞳がにやりと歪んで、やけに鮮烈な印象を修兵に与える。
戸に手をかけて、そこで立ち止まってから、揶揄する口調で満足げに零す。
「待ってたんだ、先輩。いい子じゃん」
「……行ったんじゃねーのかよ」
からかわれたとわかって、黒髪の男も少しは憮然とする。
元々派手な傷が残る怪我の影響で弱視の気がある彼は目つきがあまりよろしくないが、下から睨み上げればそれなりの迫力。
視線の鋭さで切り込まれて、叩き返すのではなく、恋次はゆる、と受け流した。
「連れ込んでる彼女が具合悪ぃから、ぎりぎりまで様子見させてくれって言って先に行かせた」
「彼女って」
「まぁ、同じようなもんだろ。さすがに檜佐木副隊長に夜這いかけられてましたなんて言えねぇもんな?」
「俺が来たのは夜じゃない」
子供のような言い分に、恋次は息で笑う。
「そういうどうでもいいとここだわるの、一護みてぇ」
「……お前、そういやあの子供とも仲良いよな」
「変な勘繰りやめてくれよ、何すか、その目つき」
「正当な嫉妬だ悪いか。恋人の交友関係は、多少は気になるもんだろうが。遊びならともかく、本命移行されたらたまんねぇし」
「アンタのその中途半端な線引きがどうしようもねぇな。ていうか俺ら恋人なの?」
「違うのかよ。俺は本命お前にするって決めたんだけど」
「する、ね。ハイハイ、わかりましたぁ。じゃ、さっさと抜いてあげっから、足開いて先輩」
「お前は恋人じゃない相手にもこういうことするわけね」
「先輩だってするんでしょ?」
「ばっか、俺は本命と連れになれたら、そんなことしない男だぜ?」
「嘘くせぇ」


笑いながら膝を折って再び顔を埋めた。その恋次の頬にゆっくり手を伸ばす。
撫でると擦り寄るようにして、横から咥えられた。
息を詰めて、熱がすぐぶり返す衝動を味わう。
ふう、と熱い溜息を洩らす修兵の顔を覗き見た恋次が、唇をそれに添わせる。
弧を描いて笑みを形作るその表情に色を感じた。
そのまま押し倒したくなる衝動に駆られて、熱に上擦った声が問う。
「マジで、時間、ねーの?」
「……だから、言ったんだよ。これで終われんの、って」
「お前も、顔、赤くない?」
「うるせーな。暑くなってきたからじゃねぇの」
「俺の舐めて興奮してんの」
「時間ねぇっつってんだろ」
「なー、我慢は身体に良くないぜ?」
「だから無理だって。時間ないし。今日は隊員に稽古つける約束あんだから、ガタガタの身体じゃ行けねぇよ」
「恋次、俺も口でする」
「はぁ?」


恋次の両肩を抑えて口のものを離させる。
引き抜かれる感触すら心地良くて、放ってしまいたいくらいだったが、衝動を飲み込むと、修兵は恋次の着流しの裾をめくって下帯に手を掛けた。
「お前も脱げ」
「だから、や、しない、って」
「後ろ入れなきゃいいんだろ」
「……アンタも口で、してくれんの?」
「してやるっつーか、舐め合いっこするっての?」
れ、と舌を出して言ってみせる修兵に、言葉から想像した恋次は顔を顰めて、赤くなった。
「どうしてアンタはそういうエロいこと臆面もなく言うかな」
「舐めて勃っちまうお前ほどじゃねぇよ。おら、もう先濡れてんじゃねぇか」
「そういうことは言わなくていいから。ほんとに時間ないから、やるならさっさと」
「覚悟早ぇなお前、男らしい!」
「うるせぇ!」
茶化した修兵の頭を平手でパンと叩いて、羞恥心を顔に出す代わりにする。



お互いの顔の前に性器が来るように身体の位置をずらす。
上衣を脱がず、袴と下帯だけ取り去った剥き出しの下半身と向かい合う。
ホント朝から何やってんだろうとか最後の理性が問いかけてきたのだが、 理性の中の時間がないという切迫した事実に儘よと喰らいつけば、相方の息の荒さで恋次の足の間が刺激された。
「恋次……っ、もっと、舌使え」
「アンタ、こそ!……きっちり逝かせてくださいよ?」
鷲掴みされた感覚に悲鳴をあげそうになりながら、三つ編みの男が命令する。
その偉そうな態度が好みだったのか、に、と笑った修兵は目の前の物に唇を落としてから囁いた。
「了解」
は、と熱い息を掛けられてから、つーっと舌先でなぞられ、舌で先を遊ばれる。
粘つく水音が彼の口と自分の性器の間で跳ねるのを聞いて、恋次の熱は一気に脳内まで回った。
声は相手の物を咥えて殺す。ぺちゃ、と自分の舌の上でも彼が出すのと同じような音がした。
薄く開いた口の間から懸命に舌を出して勃起したものを撫でる。
深く咥え込めば、真似するように、相手に同じことをされて、背筋が跳ねた。
舌が口の中で踊る感覚に、意識が全部持っていかれる。
やばいやばいやばいもう出しちまいそう、そんなことを思って、腰が揺れる。
そうすれば逆に相手の咥内で擦れるだけなのに、衝動を流すのに自分の意思で腰を揺らすことしかできない。
「せんぱっ、先輩!無理!……っも、無理!」
「俺のはもうちょい……」

先に舐め始めたのは恋次の方なのに、まだ余裕がある男が悔しくて、先を強く吸い上げる。
「あ、あ、それイイっ」
「アンタも、とっとと、逝けっ、馬鹿!………っあ!」
「お前、も、……もっと集中しろよ、俺のに」

舌先の鋭い感覚で雁首を弄られて、快楽を叩き込まれる。
やたら良く動く手管に呆れるように感嘆し、同時に溺れる。
何回も口全体で吸われると、さすがに堪える自信が崩壊してきた。
そろそろ理性が吹っ飛んで、ゆっくり焦らす舐め方なんてとてもできない。
口を窄めて首を動かし、何度も出し入れさせる。
溢れてきた液体を、音を鳴らして飲み込む。
んく、と喉を動かすとその動きすら気持ちいいと言うように、修兵のそれが大きく膨れていく。

「恋次、……出す、から」
「んっ…んん!」

一層深く咥えられて、舌で絡めるようにきゅっと吸われ、何よりその時に当たった尖った歯に我慢できなくなった。
抗えず、高まった熱をぶち撒ける。
同時に恋次の口の中の物も震えてから、二度立て続けに射精した。
粘つくそれを必死で唾液を混ぜてなんとか飲み込む。
ごく、と足の間から喉が鳴る音が聞こえて、飲まれた、と思ってくらくらした。






「……せめて仕事後に誘ってください先輩……」

息を整えた後の恋次の最初の一言に、修兵はしれっと言い返した。
「だよなぁ、こんなんしたらどうしたってラストまで突っ走りたいもんなぁ」
「……しませんよ。時間切れですよ」
「身体熱くても、俺ら哀しき勤め人だからなぁ」
「も、ほっとけば冷えますよ。ほらほらっアンタも帰って!つーか仕事行って!」
「あいよ、じゃあ残念ですが、とりあえずここで。続きは今晩?」
「……先輩は夜空いてるんですか。期待してすっぽかされんの、俺は嫌ですからね」
「誘ってる側がすっぽかすわけねぇだろ?お前は残業あんの?」
「それは、終わんないとわかんないっすけど」
「じゃ、頑張りな。朝からリクエストに応えてくれたお礼に、すんげぇ気持ちよくしてやるから」
「……馬鹿言ってないで早く行けよもう……」
「何だよいらねぇのかよ。俺の、欲しいだろ?」
「……………あのなぁ。もういい。諦めた。……アンタの言動は諦めた……」
「あんだよそれぇ。お前から誘わないからいっつも俺がこういうコト言うんじゃん。恋人想いの優しい男だろうが?」
「……。だから、俺ら恋人なの?」
「違うの?俺はそう思ってんだけど。お前好きなやつ他にいんの?」
「……いませんよ」
「俺が本命なんだろ?」
「そんなこと言ってないじゃないですか」
「顔に書いてある。檜佐木先輩に惚れてます、って」
「……そんなことないです」
「耳赤いぞ」
「暑いからっすよ!」
「ははぁ、じゃあ、仕事終わりには夕涼みに行こうや」
「んなこと言って、涼ませてくれないくせに」
「そりゃそうだ」


まぁ精々、熱くしてやるよ。
そんな風に言う男の背中を裸足で蹴飛ばしてから、恋次は編んだ赤髪を解き、身支度を整えに掛かった。




Fin.



朝っぱらからの奉仕+理吉微登場が今回の書きたかったこと。

最低でも一回以上はオヤジ的どうしようもない言動をさせないとねというのが修兵書くときの自分ルール。
修兵はビジュアルは若いが感覚が若干オヤジ的なアレだといいなぁという。
アニメの三つ編み寝姿使ってみた。他メディアも美味しければガンガンいこうぜー。

Joyce
執筆(2006/05/27)
更新(2006/06/11)



WJ中心ごった煮部屋へ。