「そういや、なんでてめえは俺に抱かれるんだ?」 それを聞いて一瞬で不機嫌になった顔で、はぁと憂鬱そうに恋次は溜息を吐いた。 「またそういう話かよ」 「あ、違う!そーいう意味じゃなくてだな。てめえが俺をどう思ってるかとかじゃなくて」 好きだとかそういう言葉を一生懸命避けながら赤くなって説明する様子を、可愛いなぁと見詰めながら、 恋次は大人しく先を待ってやる。 「だっててめえも男じゃん?突っ込みたいんじゃなくて、抱かれてぇっていう心境が知りたいっつーか」 「えー?だって後ろも前も弄ってもらえんだぜ、気持ちいいじゃねえか」 何のことはないと軽く答えた男に、一護はあからさまにがっくり項垂れた。 「……即物的過ぎるぞ」 「うるせぇなぁ。ああもう、じゃあ言ってやるよ。俺にとってのてめぇは格好いい男なんだよ、抱かれてぇくらい、滅法男前に見えんだ」 「……マジで」 「おうよ」 自分のことをいつもガキだガキだと馬鹿にする恋次からこんな言葉を聞けるなんて。 ぱあ、と表情が明るくなった単純な子供に呆れる気持ちと、湧き上がる愛しさが丁度半分ずつ。 頭を撫でたいけれど、それは彼が今上手く育てた男の矜持を粉砕するのだろうなと思って指を納める。 「てめえはどうなんだ、男抱きたいってのは、現世じゃ普通なのかよ」 「普通じゃねえとは思うけど。まぁ全くいねぇわけじゃねぇだろうし。ただ、俺は今まで一度もそういう気持ちになったこともねぇし、 周りでそういう奴もいねぇなぁ」 「……お前はともかく、周りでも一人もいねぇもんなのか?」 「あ?あっちじゃもっと普通なのか?男と男が、その」 「まぁなぁ。俺が流魂街に居た頃は当たり前だった……治安も酷え町だったし、むしろ子供でも貞操が危ねぇっつーか。 男とか女とか関係なくな。俺らは仲間がいて、上手く逃げ回ってたけど、同じくらいのガキで売り飛ばされるのは何度も目にしてる」 「……」 「統学院はそうでもなかったかな、女の院生も結構居たし。こっちと変わんねぇかも」 「ふーん……」 「それから、護廷十三隊だったらやっぱ、院生から上がってくる奴らだけじゃねぇから、どうしたって男の割合多くなるし。 そうすると必然的に女の割り当て下がるし。血の気多い奴ら多いし。虚共を叩き切った後はどうしたって身体熱いし」 「……そういや一角と弓親もできてんだよ、な?」 「あーあの人たちは護廷十三隊入隊する前からの仲らしいけど。ってそれは更木隊長ともだな。特に十一番隊はほぼ男所帯だからなー、男同士でつるんでても 全然おかしくねぇっつーか」 「でもごつい奴らばっかりじゃん」 「真性はそれがいいらしいぜ?」 「俺はごつくないけど、てめえはいいわけ?」 「俺は女もイける口だっつーの」 「……どっちにしろモテてなきゃいいけどよ」 「あーん?黒崎君は嫉妬ですか?似合わねぇぞ」 「やかましい。てめえが貞操固きゃ心配はねえよ」 「だからてめえだけって言ってんだろ?」 「俺誘った時のてめえ見たら、そうは思えねぇよ」 いつもそんな素振りを見せないくせに、急に空気を支配する彼にひどく戸惑った。 滴るような色気、そんなものに当てられて、年頃の男が耐えられるわけがない。 す、と髪紐に伸ばされた指がそれを解く様も、ゆっくり散らばる赤い毛先も、全部覚えている。 長い前髪から透けて見える、刺青と、強い瞳。 薄く開いた唇から、名前が呼ばれて、くらくらした。 思い出して僅かに赤面した頬に男はひたりと唇を当て、囁く。 「それはお褒めに預かりまして、どうも」 「……褒めてねぇよ」 「ま、今の俺にとっちゃ、てめえがそう褒めてくれれば十分だ」 「だから褒めてねぇって!」 「わかったわかった、照れんな」 「ちっ……まぁな、俺もな、しっかり流されたからな」 「流された言うな。一発で終わらせたわけじゃねえくせによ?」 うっ、と一護が詰まる。 確かに、押し倒されて、その気にさせられて。それから、夢中になった。 貪ったのは、当然一回では収まらない。 「だっててめぇが逝った顔エロいんだよ、見るとやべぇまただよって」 「お前が逝った顔も十分エロいから安心しとけ。何回でも逝かせたくなる面しやがって」 「それだよ!てめえ、俺ばっか逝かせねぇでちったぁ自分も逝く努力しやがれ!」 「なんだよ努力って。努力すんのはてめえだろうが」 「悪かったなぁテクなくてよ!」 「別に俺が言ってることじゃねえだろ?俺はてめえが逝くとこ見てえから色々やってやってんだ。訳わかんねぇ卑下は止めて、有難く思えよ」 「だって!さっきてめえ抱かれてぇとか言ってた癖に、なんで俺ばっかり逝かされなきゃいけねーんだよ!」 ああ、そういうコトか。逝かせたいも抱かれたいも大して違いがないつもりだったのに、どうしてこだわるんだか。 恋次は笑みを含んだ眼差しで、覗き込む。 一護の意識がこちらに繋がっていることを確かめて、にっと笑う。 誘惑の意図を感じさせる程度には低い声に落として。 「一度先に逝っといた方が、てめえを中で感じる時間が長くなるだろ?」 一気にぶわっと首まで赤くなった子供を見て、あ、コイツ勃ったかな、と他人事のように恋次は思った。 Fin.
まぁ護廷十三隊は多分新撰組を元にしてるんだろーなとずっと思ってたので、
新撰組でも一時流行したという史実のある男色ブーム くらいあるんでないのと軽い気持ちで書いた一作。 恋次さんも男なので、可愛い→逝かせたいの思考の持ち主ですから、一護は大変です。 攻めなのにねぇ。 Joyce執筆時(2006/5/7) |